「良い自由雲台を使ってますね!」と言われる事がありますが、良い自由雲台って一体どんな自由雲台でしょうか?
今回は私が思う良い自由雲台について自論を述べつつ、選び方を紹介したいと思います。
そうじゃないよってご意見もあると思いますが、あくまでもひとつの意見として読んでいただけたら幸いです。
スペック
さてまず自由雲台を選定する時に多くの方が参考にするのがメーカー発表のスペックだと思います。
冒頭に掲載した写真に写っている3機種を例にスペックをご覧ください。
メーカー/製品名 | GITZO Légende雲台 | ACRATECH GXP | ReallyRightStuff BH-55 |
重量 | 420g | 484g | 886g |
耐荷重 | 8kg | 50ポンド(22.7kg) | 50ポンド(22.7kg) |
フリクションコントロール | 有り | 有り | 有り |
クランプオプション | ノブ | ノブ/レバー | ノブ/レバー/パノラマ |
まず重量ですがこれは選定する上で非常に重要な項目です。
軽いから良いとか重いのが正義って話しではなく、どのような用途で必要なのかという事が重要となってきます。
例えば上の2機種では重量が倍ほど異なります。
登山においてバックパックの重量制限は一般的には体重の1/3程度までが推奨とされています。私の体重が55キロですので、最大重量は約18.3キロ程度と考えた時、この雲台の重量差は大きな負担となります。
次に耐荷重ですが、私はこの数値は基本的に無視しています。
上のスペック表によるとACRATECHのGXPと、RRSのBH-55が同じ耐荷重ですが、実際に比較してみますと明らかにBH-55の方が固定力が強いです。
各メーカーによって計測方法が異なる事が原因ですので、別にメーカーが嘘の数値を発表している訳ではありませんが、我々ユーザーにとって指標となる数値では無いのは確かです。
次にフリクションコントロールの有無。
フリクションコントロールとは雲台のボールの動きの固さをユーザーが調整できる機能です。
ロックを緩めた時に、完全に緩々な状態に設定できたり、機材から手を離しても動かないほど固く設定することも可能です。
大型機材を扱う方にとっては非常に安心安全な機能です。
ただ搭載の有無がイコール良い雲台という訳ではなく、一切調整せず緩々で使いたいという方にとっては、むしろ邪魔な機能なのでノブなど無い方が良いでしょう。
クランプオプションの有無は意外と重要です。
後になってレバークランプが扱いにくくてノブ式に交換したくなったり、その逆もあります。
購入時に選べたり、購入後に変えられる事はメリットのひとつでは有ると思います。
大抵のメーカーはノブ式がありますが、中にはレバー式しかない製品もあるので、互換性を重視するなら注意したい点です。
スペックから見える情報はこの程度でしょうか。
自分独自のスペック表を作ってみる
気になる製品があったら、それぞれメーカーの製品ページをよく読んで独自でスペック表を作ってみてください。
メーカー/製品名 | GITZO Légende雲台 | ACRATECH GXP | ReallyRightStuff BH-55 |
重量 | 420g | 484g | 886g |
クランプオプション | ノブ | ノブ/レバー | ノブ/レバー/パノラマ |
ボールサイズ(直径) | 30mm | 38mm | 55mm |
水洗い | 可 | 可 | 不可 |
分解 | 可(容易) | 可(やや難) | 不可 |
その他機能 | 簡易ジンバルモード | 2ヶ所のドロップノッチ | |
パノラマ雲台モード |
まず私が重要視しているのはボールサイズです。
もちろん雲台の工作精度や材質・固定方式によって変わりますが、大きなボールである事はボールと固定部分の固定面積が広くなる事を意味します。
小さい面積で固定された小さなボールよりも、大きな面積で固定された大きなボールの方が強固に固定されやすいのは想像に難くないでしょう。
少なくともメーカー発表の耐荷重より比較材料になると思います。
次にメンテナンス性です。水洗い・分解できる製品は万が一海水や泥や埃・油などで汚れたとしても清掃が可能です。
過酷な環境で撮影を行う事が多い方はメンテナンス性が高い雲台を選ぶと良いでしょう。
ちなみにACRATECH GXPはどれだけ汚れても、分解などせずに、そのまま薄めた中性洗剤と水で洗って乾かせば良いだけです。
あらかじめ悪環境だと分かっている撮影には、私は必ずこの雲台を持って行きます。
最後、その他機能に関して。
例えばACRATECH GXPは簡易ジンバルモードを搭載しており、重さ約3kg・長さ約38cmの一眼レフ時代の400mm/f2.8に対応してますので、Zマウントであれば800mm f/6.3でも使えるという事になります。
たった484gの雲台が軽々と800mm超望遠レンズを振り回すのですから、非常に魅力的な機能です。(ちなみにジンバルモードではなく、通常モードではあまり快適に使えないと思います)
GXPのもう一つの機能、パノラマ雲台モードに関してはわざわざレンチを持ち歩く必要がありますし、分解して組み立てしてまで使うか?と考えたら微妙な機能です。
それでしたらRRSのBH-55でパノラマクランプを選べば分解する必要なく、標準の状態でパノラマ雲台として機能します。
RRSのBH-55のように2ヶ所のドロップノッチがある雲台は、左手で固定ハンドルを握りながら右手でカメラのグリップを握れるため、レンズを上空に向けやすい構造となっています。
そのため星景写真家にとっては扱いやすい雲台と言えるかもしれません。
このように独自のスペック表を作れば、自分にとってどの雲台が適しているか見えやすくなると思います。
固定時のズレの大きさ
自由雲台は雲台の外殻を閉じたり、内部部品を押し当てたりして、円形のボールを固定します。
下から上へ押し当てる方式であれば固定時に上へズレますし、外殻で挟み込んで閉める方式だと横方向にズレる事があります。
自由雲台である以上、構造上において仕方がないのですが、ズレ幅は各メーカーによって大きく異なります。
例えばRRS BH-55とACRATECH GXPでは、どのくらいズレ幅に違いがあるか、下の動画をぜひご覧ください。
ちなみに赤いターゲットの大きさは1mm²です。
BH-55のズレ幅はどのメーカーと比較しても最小であり、この点においてはもっとも優秀な自由雲台であり、逆にACRATECHはこの点においては非常に評価が低い雲台です。
マクロ撮影など厳密な構図合わせが必要な方は、この点を重視した方が良いでしょう。
パンのロック・アンロック時に構図がズレる
パンのロックでもズレが起こる雲台があります。上方向にズレるものもあれば、回転方向にズレるものもあります。これも仕様上、ある程度は仕方ないかもしれません。
こちらに関しても精度の良い雲台を選ぶと、このズレは最小限で済みます。
これもやはり実際に操作してみないと、ズレが起こるかどうか分かりません。
私がこれまで使ってきた自由雲台の中でもっともズレが少なかったのはアルカスイスのZ-1(Z-1+)でした。
ボールの動きの滑らかさ
自由雲台の操作性においてもっとも重要と言えるのがボールの動きの滑らかさ。
ボールを半ロックした状態(またはフリクションがかかった状態)で、どれだけ滑らかに動くのか?という事です。
カクカクと引っかかったり、自分が動かしたい方向にスムーズに動かない製品に、ストレスを感じる方が多いようです。
感じ方には好みもありますので、実際に売り場に行って現物を触ってみて自分の好みかどうかを判断されるのが一番だと思います。
ちなみにGitzoのレジェンド雲台はGitzoのこのサイズの自由雲台の中では一番スムーズです。他社製品と比較しても遜色ありません。
RRSのBH-55も心地よい動きです。
ACRATECHはフリクションコントロールの掛け方により、固くなる方向にムラがあります。
各操作の位置のバランス、実際の握りやすさ
人それぞれ感じ方は違うと書きましたが、手の大きさや握力なんかも異なります。
ある人にとっては丁度良くても、ある人には固くて扱いにくいという事もあるでしょう。
それらを踏まえた上で参考までに、私が感じた不満の一例を紹介します。
●ARCA-SWISS Z1+の涙型のパンロックノブが三脚のベース部分に干渉し操作できない個体があった。
●RRS BH-55のパンノブとフリクションコントロールノブの位置が近すぎてパン操作時、フリクションコントロールノブに当たってしまう時がある。
●KIRKの自由雲台のパンノブとフリクションコントロールノブの形状が似過ぎているため誤操作してしまった。
●Gitzo自由雲台のフリクションコントロールノブが簡単に動いてしまうため、使用する時に設定が変わっていた。
●Markins Q10iのパンノブの固定力が弱めなのに、ノブが小さく力を入れ難い。
クイックシューシステムはアルカスイスタイプ(アルカスイス互換)であること
今更ですが、改めて説明しておきます。
雲台にはカメラネジタイプと、クイックシュータイプがあります。
カメラネジタイプはカメラの底の雌ネジ穴と、同じ大きさの雄ネジが雲台に付いているタイプです。カメラの脱着には時間や煩わしさを要しますが、余計な部品を挟まずに直接装着できるため、もっとも固定力に優れ、ブレに強いという声もあります。
しかしネジタイプですと縦構図でセットした時に、三脚の中心から大きく離れてしまうため、バランスが不安定になってしまいます。ミニ三脚などでは機材の重みに耐えきれず、倒れてしまうこともあります。またカメラを傷つけないために台座がコルクやゴムシートを貼ってあるものが多く、このシートが原因で撓んだりズレてしまうことがあります。ネジの向きによっては機材の重さによって緩んでしまうこともあります。
クイックシュータイプとは雲台専用のプレートをあらかじめカメラに装着しておくことによって、雲台の脱着をスピーディにするための機構です。しかしこれにも問題があります。カメラと雲台の間に1つ余計な部品が着くわけですから、構造的に弱くなります。当然ですね。また多くのクイックシューシステムは「クイックに脱着できること」を重視して作られてきました。スピードにこだわるあまり「強さ」を無視してきた結果、ネジタイプより劣っていると長く言われてきたのです。
しかしアルカスイス互換のクイックシュータイプは、ボディ専用にプレートを作っているメーカーが多く、ボディと一体化することが可能です。またストラップを取り付ける穴を利用してネジ止めすることによって、ボディ直付け以上の剛性を実現している物もあります。
またアルカスイススタイルはアリガタとアリミゾが面で固定する構造です。
このスタイルをカメラのクイックシューという分野で最初に取り入れたメーカーが「アルカスイス」でありそして、そのアルカスイスを模倣した製品を総じて「アルカスイス互換品」と我々が呼んでいるのです。
これらの互換品は厳密に規格化されていないため、各メーカー毎に微妙な誤差が生じています。
この誤差によって互換性まで脅かされているという皮肉な結果に陥っているのが現実です。
この問題を回避するにはプレートとクランプを同一メーカーに統一するしかありません。
このようにまだ問題は残っていますが、それらを差し引いてもアルカスイス互換は素晴らしいクイックシューシステムです。
まとめ
さてそろそろ良い自由雲台の選び方をまとめたいと思います。
- メーカー発表の耐荷重はアテにしないこと。
- 自分独自のスペック表を作り比較してみること。
- 耐荷重よりもボールサイズの方が固定力の予測が容易。
- ボールの滑らかさをチェックすること。
- 各ロック操作時のズレをチェックすること。
- 各操作部(ハンドルやノブやレバー)の握りやすさをチェックすること。
- 各操作部の位置が、自分の機材と相性が良いか確認すること。
- クイックシューシステムはアルカスイスタイプ(アルカスイス互換)であること。
- 異なるメーカー製品を組み合わせる際は互換問題が起こる可能性があることを知っておく。
私はこれまで20種類以上の自由雲台を買い漁り使ってきました。
そこで得た教訓は「実際に撮影現場で使ってみないと良いも悪いも分からない」ということです。
それでも感覚的な判断はできると思いますので、可能な限り実機を触ってから購入を検討される事をお勧めします。
ただ実機を置いている店舗がお近くに無かったり、そもそも国内に実機が無い製品もありますので、ネットの情報だけが頼りという事も多々あるでしょう。
そういった場合でも今回紹介した内容を把握しておく事で、ネット情報や製品のレビュー動画を参考にすれば、ある程度その自由雲台の(あなたにとっての)良し悪しの予測を立てられると思います。
この記事が「良い自由雲台」選びの一助となれば幸いです。
最後になりましたが私が最高と思っている自由雲台は、冒頭の写真の3機種です。
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