※当記事は2018年5月18日に書いた記事のリライトです。
今回はアルカスイス(ARCA-SWISS) を分かりやすくお伝えしたいと思います。
アルカスイスとは?
まずアルカスイス(ARCA-SWISS) とは一体なんなのか?
答えは1926年創業の「アルカスイス・インターナショナル社」というカメラメーカーです。現在の所在地はスイス ヴォレラウに、フランス ブザンソンに本社を置くビューカメラのメーカーです。
ビューカメラとは独立したファインダーを持たないカメラのことで、基本的にレンズ、蛇腹、ガラス(フィルム挿入部)の三つの部分から構成されます。
※画像引用(KPI ケンコープロフェッショナルイメージング)
この三つを保持するためにモノレールを用いるため「モノレールカメラ」とも呼ばれています。そのレールを乗せるために開発されたものがいわゆる「アルカスイスの雲台やクランプ」なのです。
アルカスイス社の歴史
1926年…スイス チューリッヒに、アルフレッド オシュヴァルトが「アルカスイス」社を設立。
アルフレッド オシュヴァルトが退社後、その兄弟が会社を引き継ぎ、カメラの修理工場を立ち上げる。
1950年代…プロ用カメラの開発・販売。
1964年…自社カメラ用の自由雲台を開発・販売。
1984年…Philippe Vogt社に買収される。
1990年代…自由雲台 B-1のヒット。1989年にリニューアルされたB-1が世界的に普及し始める。
1999年…本社をフランスのブザンソンに移転、「アルカスイスインターナショナル」社を設立。
現在に至る
アルカスイス雲台レールの仕組み
アルカスイス社が採用しているレールは、建築や金属加工の分野で「アリガタ」と「アリ溝(アリミゾ)」と呼ばれる方式です。アリガタがプレートの取り付け部分、アリ溝がクランプの取り付け部分です。図で描くとこんな感じです。
これらを組み合わせる接合方式は、何と弥生時代の遺構に存在しているとのことで「アリガタ」という名称は昆虫のアリの触角の形(角度)に由来するらしいです。
このスタイルを真っ先にスチルカメラ業界に取り入れた企業が「アルカスイス」社です。
アルカスイス固定方式のメリット
アルカスイス固定方式のメリットは
①ねじ式と比較すると圧倒的にスピーディに脱着できる。
②プレートをスライドさせて重心位置を微調整できる。
③面接触で固定するため特定の箇所だけが削れたり、バネの緩みによって固定部分にガタが出るといった事が起こらない。
大きくこの3点です。
そして互換性に問題がなければ、非常に頑丈で強固に固定できます。
たまに「アルカスイスは構造上、望遠レンズで使うとズレる」といった意見を耳にします。
確かに一見すると、レール式のクランプはスライド方向に対して大きな力が加わった時に、滑ってしまいそうに感じます。
しかし、正しい圧力で締め付けられていれば 、面接触であるため、その摩擦力により数十kgの負荷が掛かったとしても1mmだってズレることはありません。
アルカスイス互換?アルカスイスコピー?
1964年に自社ビューカメラのレールをホールドするために生まれたARCA-SWISS自由雲台は瞬く間にカメラ愛好者にも広まってゆき、今ではあらゆる雲台メーカーが採用しています。
ただし「アルカスイス互換」とか「アルカスイス規格」と勝手に呼ばれているだけで、実際には規格化されている訳ではありません。そのため「アルカスイス模倣品」という表現のほうが正しいかもしれません。
そもそも同一メーカーであっても個体差があります。それを真似て作っているのですから、各メーカーによって誤差が生じるのは当然です。計測機器の違いによる誤差もあれば、「ミリメートル」「インチ」の違いによる僅かな誤差もあるでしょう。
この誤差が生む「アルカスイス互換製品の互換性の悪さ」が一番の問題となっています。
近年、互換問題は随分解消されてきましたが、規格化されない限りは完全に解消される事はありません。購入の際には十分注意が必要です。
ほとんどのメーカーは他社製品との互換性や使用を認めていません。それは当然といえば当然で、勝手に他社の製品と組み合わされ、その結果壊れた!なんて言われても、他社がどんな互換品を作っているか分からないのに、互換性を保証することはできません。
巷でよく耳にする「アルカスイス互換は互換性が悪い」という声は確かであり、その原因は規格化されないままアルカスイスの模倣品がデファクトスタンダードになってしまったからです。
互換品が出回ることでアルカスイス社がメリットがある訳ではないので、この現状はアルカスイス社にとっていい迷惑かもしれませんね。
問題の原因
「アルカスイス互換は互換性が悪い」という問題の詳細な原因を説明します。下図は異なるメーカー2社のアルカスイス互換プレートを正確にトレースしたものです。ふたつのプレートの幅はほぼ同じ約38mmです。
青色のプレートを計測しガチッと固定できるクランプを製作したとします。
このクランプを緑色のプレートに合わせますと、何が起こるでしょうか?
この問題の原因は、傾斜が始まる高さの違いです。傾斜の始まりが低い分、アリ溝の奥へ奥へと潜り込んでしまう。という訳です。
この問題は幅調整が容易なスクリューノブ式(ネジ式)のクランプで起こりにくく、幅調整が難しいレバー式のクランプに多い問題です。
スクリューノブ式のクランプを使う、もしくは、プレートとクランプを同一メーカーに統一する事で、この問題の多くは解決します。
日本でのアルカスイス互換自由雲台の現状
価格.comの三脚売れ筋ランキングを見ますと、雲台付き三脚TOP10中、3WAY雲台タイプが4製品、自由雲台が6製品でした。私がYahoo!ブログを書き始めた頃(2013年7月)に調べた時はほとんどが3WAY雲台でしたから、この10年ほどでマーケットシェアが逆転したことになります。
メーカー別で見ますと自由雲台単体の販売ではLeofotoが強いようで、これも価格.comですがTOP10中、4製品を占めています。10年前に創業したLeofotoが現在の日本でのシェアがNo.1というのも凄いですね。次いでSIRUIが3製品ランクインしており、中国メーカーが7製品を占めるという結果となっています。
JOBY、SLIKの2製品を除く8製品がアルカスイス互換であり、アルカスイス互換が市民権を得ている事が証明された結果と言えるでしょう。
逆に落ち目となった3WAY雲台はTOP10中、9製品が日本メーカーが占め、その9製品すべてがアルカスイス互換では無いという、いかにも日本らしいガラパゴス化です。
日本でのアルカスイス互換の歴史
アルカスイスの互換性品はあらゆるメーカーから発売されています。何も互換品なんぞ使わずに本家本元のARCA-SWISS社の製品を使えば良いじゃないか?と言われそうですが、なかなかそう簡単な話しではありません。
多くの人がARCA-SWISS社の製品を使わない最大の理由は価格の高さです。冗談抜きで高いんです。一番安い「モノボールP0 1/4ネジ仕様」でも約5万円。一番高額な「C1キューブgpフリップロック」に至っては国内最安価格が523,600円!ちょっと目眩しそうですね。
そして汎用プレートは一般的なカメラに装着するには問題が多く、決して優れたプレートとは言えませんでした。
そこで1990年台に入ってReallyRightStuff(RRS)やKIRK(KES)やWimberleyといったアメリカメーカーが台頭し、(一般的なカメラにとって)優れたプレート・クランプを開発していきました。
そういったアルカスイス互換黎明期の製品は静かなブームとなり、その静かなブームをいち早く嗅ぎつけたBENRO・SIRUIなど、たくさんの中国メーカーが火付け役となって現在に至るという訳です。
スクリューノブ式 レバー式 どちらにもメリットがある
互換問題ではレバー式に難があるように書きましたが、互換問題を克服した製品もありますし、ノブ式よりも優れている点もあります。
まずスクリューノブ式クランプはプレート精度のバラツキによる影響を受けにくく、異メーカー間の互換性は高いと言えます。クイックシューとは名ばかりで、ちっともクイックに脱着できないという声も多いです。しかしKIRKのクランプのように、ネジピッチが大きいノブを採用することでクイックに着脱できる製品もあります。
レバークランプはプレート精度のバラツキによる影響を受けやすく、メーカー間で互換性に問題がでる可能性があります。しかし幅調整が可能なクランプも多く発売されており、物によっては互換問題はほぼ解決しています。何よりもクイックシューの名に恥じぬスピーディな脱着を可能にしています。
特殊な機能がついているモデルも
パノラマ機能が付いたクランプや、パン棒付きのクランプ、ストラップホール付きと言った特殊なクランプも存在します。
こういった特殊なアクセサリーと互換性があり、用途によって組み合わせが可能なところが、アルカスイス互換製品の魅力と言えます。
アルカスイス互換プレート
プレートはアルミ板とネジで構成されているシンプルなアクセサリーですので、どのメーカーを使ってもそんなに変わらないかな?と多くの方が考えてしまいがちです。しかし某有名プロショップの店長さんに言わせると「何を使って、どんな作り方をしているかも分からないものに機材を任せられない」と仰られています。確かにきちんとした素材すら公表していないメーカーの製品は怖いですね。
またプレートには汎用品と機種専用品があります。
汎用品はあらゆるカメラやレンズの三脚座に装着可能というメリットはありますが、カメラボディの傷防止のために貼られたゴムシートやコルクシートに起因するズレ・撓み・微ブレが、しばしば問題となります。
対して機種専用品はコストパフォーマンスこそ悪いですが、カメラボディや三脚座の形状を計測して、正確に型を取った上でズレないように設計されています。このためゴムやコルクのシートを貼る必要もなく、雲台に直接ネジで取り付けるタイプの雲台よりも、遥か優れたに剛性を発揮する製品もあります。メーカーによりそのクオリティは様々ですので、長く使う機材であれば多少高くても、ちゃんとしたメーカーの機種専用品を購入されることをお勧めします。
まとめ
●一般的に「アルカスイス」と呼ばれているものの正体はARCA-SWISSという会社が作ったビューカメラのクイックシューシステムである。
●そのクイックシューシステム部分のみ人気が高まり、それを模倣した様々な互換メーカーが誕生し、現在ではもっとも有名なクイックリリースの規格(のようなもの)にまで成長した。
●ただし工業規格化されていないため、アルカスイス互換製品には互換問題が存在する。しかし各メーカーの歩み寄りや工夫によって、徐々に解決しつつある。
●クイックシュー雲台は雲台直付け雲台に劣っていたが、機種専用プレートの出現により、欠点はほぼすべてクリアされている。
アルカスイスを正しく理解しておくことで、アルカスイス互換製品たちがあなたの写真ライフをより便利に快適にサポートしてくれるはずです!
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