ちょっと前の記事「三脚・雲台・ネジなどの機材を正確に測定するための計測機器」で書きましたが、ボルティング(ボルトで固定すること)において、軸力は非常に重要です。
締め付けが弱すぎるとボルトの緩みやガタ・故障の原因に繋がりますし、逆に強すぎるとボルトの変形・断裂や、機材の破損の原因となります。
まずは分かっているようで、意外と説明できないねじの仕組みから理解していきましょう!
ネジの仕組み
ネジを締めるときって、ドライバーやレンチで右に回転させるので、回して締めているイメージがありますが、ネジ自体は下に進んでいます。
雌ネジに締めこまれていくことにより、ネジが少し伸び「元の形に戻ろうとする力」で止まっています。これが軸力です。
ネジを締めすぎてしまうと、ねじの戻ることができる範囲を超えてしまい、ねじが伸びてしまいます。その結果、締めたはずのねじが緩んでしまったり、外れてしまうといったトラブルに見舞われてしまうわけです。怖いですね。
でも、当たり前ですが軸力は目に見えません。
どれくらいの力でねじを締めたか分かれば良いのに!
そんな目に見えない軸力を管理してやろうという工具があるんです。
三脚・雲台もトルク管理をやってみよう!
とは言いましても、すでに締め込めれたネジの軸力を調べようと思うと、大掛かりな機器が必要でなかなか大変です。
だったら、適切な軸力になるように締め込む力を管理しよう!というのが「トルクレンチ」や「トルクドライバー」です。逆転の発想ですね。
世の中にはネジやボルトがありとあらゆる製品に使用されています。
そのほとんどが適切なトルクで管理されているのです。一般的によく目にするのが自動車のタイヤの締め付けトルクですね。
普通車なら100-120 N·m、軽自動車なら80-100 N·mです。締め付けトルクを誤ると場合によっては、重大な不具合が発生するリスクも出てきます。車の取扱説明書に記載されている事が多いので確認してみてください。
話しが車に逸れてしまいましたが、三脚や雲台などに使われているネジにも、当然設計上の締め付けトルクが定められています。
メーカーに確認したところ、Really Right Stuffの自由雲台に装着されているレバークランプもきちんとトルク管理されて出荷されているそうです。
上製品のクランプの締め付けトルクは「5 N·m」。極々一般的な締め付けトルクで管理されているようですね。
アルカスイス社の雲台であればM6ネジが使用されているので、やはり同じくらいのトルク(5〜5.2 N·m)で固定するのが理想的だと思います。
でも機材のひとつひとつのネジの締め付けトルクをメーカーに確認するのは大変…。
いえいえ、そんなに面倒なことはありません。実は一般的な締め付けトルクはネジの太さによって規定数値が決まっているのです。
三脚・雲台の締め付けトルクはその中の一般区分(T系列)でトルク管理をすれば良い。という訳です。
インチサイズの締め付けトルクはあまり精度の高い情報がなかったので、自信がありませんが、ネジの太さから推察すると、まぁこんなものだと思います。
インチサイズは日本では馴染みがないので、普通の方なら1/4インチと言われてもピンと来ませんね。工具メーカー「TONE」さんにお願いして、換算表をお借りしました。

資料データ:TONE インチ・ミリ換算表より
この2つの表を印刷しておけば、だいたいの三脚と雲台のトルク管理はできると思います。
でも、トルクレンチなんて使ったことがないから、使いこなせるか不安…
という方がいらっしゃるかもしれません。でも、めっちゃ簡単です。次は実際の使い方を見てみましょう!
トルクレンチの使い方
まずはトルクドライバー。M3くらいまでのネジの締め付けや、Really Right Stuffのミニ三脚の脚の固さ調整などに使っています。
使い方は非常に簡単。まずはネジに合うビットを取り付けます。次に調整リング(真ん中辺りのローレット加工された部分)を回してトルクをセットします。ネジを回して1回空転するまで締め付けます。たったこれだけ。
では早速Really Right Stuffのミニ三脚の脚の開脚固さを調整します。設定トルクは0.9N·m。3本とも締め付けたら完了です。これでどの脚も適切な固さで開くようになりました。快適すぎる!
次はトルクレンチで三脚の脚の固さも調整していきます。使用工具はKTCのデジタル式トルクレンチ「デジラチェ」。設定できる範囲は 2〜30 N·mです。
このレンチの良いところは5個まで設定値をプリセットできるところ。また計測後に締め付けトルクの数値を表示し続けたり、逆に0に戻したり、といったシンプルながらも細かい設計ができます。
使い方は非常にシンプルで、設定トルクに近づくと「ピッピッピ…」と鳴り始め、数値に達すると「ピーッ」と鳴って、音と数値で締め付けが可能です。
三脚の開脚固さには緩みさえ無ければ正解というのが無くて、自分がちょうど良いなと思う固さに調整すれば良いと思います。
ちなみに私が適切だと思うReally Right Stuffの三脚の開脚部分のネジの設定トルクは以下の通りです。
①Really Right Stuff シリーズ1…4.0N·m
②Really Right Stuff シリーズ2…6.0N·m
③Really Right Stuff シリーズ3…8.5N·m
トルクレンチ使用時の注意点
トルクレンチを使うとき、グリップを持つ位置はとても重要です。力点位置(グリップを持つ位置)が変わると、正しいトルクが測れないからです。
トルクレンチのハンドルには「手力加圧線」という基準点があります。特に表記していないものはグリップの中心となります。この基準点に中指がくるように握って締めることが重要です。
トルクレンチの管理方法
使い終わったら、設定トルクを戻す必要があります(デジタル式では戻す必要はありません)。一般的なプレセット型トルクレンチはコイルスプリングを締め込んでトルク値を設定します。そのまま放置しておくとスプリングが元に戻らなくなって、数値がズレる原因となってしまいます。
またトルク値を戻す際、一番低い数値に設定します。それ以上緩めてしまうとバネ外れの原因となるので注意が必要です。
トルクレンチは工具と思っている人が多いですが、私は計測機器だと思っています。非常に繊細ですから乱暴に扱わないように心がけましょう。プレセット型だとコイルスプリングが入っているので湿気も大敵です。
使わないときはケースに入れ、できればレンズと一緒に防湿庫で保管して下さい。
私が使っているトルクレンチ
中村製作所(KANON)CN120LTDK
トルクドライバー
設定可能トルク範囲:0.2〜1.2N·m
TONE T2MN6
プレセット形トルクレンチ
設定可能トルク範囲:1〜6N·m
KTC ( 京都機械工具 ) デジラチェ GEK030-C3A
デジタル式トルクレンチ
設定可能トルク範囲:2〜30N·m
GEK030-C3A
まとめ
今回はネジを適切なトルクで締める大切さについて書きました。要点をまとめますと…
●ネジは締めると伸びる。そして戻ろうとする力を利用して固定している。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
●強く締めすぎるとネジが伸びてしまって戻らなくなる(変形する)。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
●変形すると緩みや外れ、断裂の危険性が高まる。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
●適切な力で締め付けてやることが重要
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
●トルクドライバーやトルクレンチを使えば安全なトルクでネジを締めることができる。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
●三脚の脚の固さなんかも快適な固さを何度でも再現できるぞ。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
●買え
というお話でした。参考になりましたら幸いです。ではでは〜


最新記事 by haku (全て見る)
- 新たな中華製 Nikon Zf専用のLブラケットを発見! JLwin JL-Zf レビュー&カスタム - 9月 18, 2024
- note はじめました - 7月 2, 2024
- うずまきのひびき 〜流体のダイナミズムと美学〜 - 6月 24, 2024