3WAY雲台は昔はよく使っていましたが、最近は使っていません。使わなくなった理由はひとつひとつの構図を合わせるのが面倒臭くなったからです。
前後左右パンを単独で調整できることはメリットのひとつですが、近年自由雲台の性能が向上し、適度なフリクションコントロールと滑らかなボールのおかげで、3WAYが必要ないほど構図合わせが楽になりました。また同程度のスペックであっても、自由雲台の方が断然コンパクトで軽量に作ることができます。自由雲台よりも3WAYの方が優れている部分もありますが、総合的には自由雲台の方が享受できるメリットが多く、また繊細な微調整においてはギア雲台の方が圧倒的に優れているため、3WAY雲台が廃っていったのも自然の流れと言えるでしょう。
根強いニーズがあることも確か
しかしGitzoから16年振りの新製品、3ウェイフルード雲台「GHF3W」が2019年12月20日に発売されるというニュースが流れたことで、3WAY雲台界隈は一気に色めき立っています。Gitzoの雲台には何度も失望させられてきた身としては、さぁ買うぞ!とは思いませんが、それでも触ってみたくてソワソワしてます。
さて今回は、そんな3WAY再燃元年となりそうな2019年秋にふさわしい雲台をご紹介したいと思います。
プロスパイン
今回ご紹介する3WAY雲台は「プロスパイン P-N75ALP」です。
まずプロスパインというメーカーをよくご存知ないという方のために、少し説明させて頂きます。
カメラ三脚用雲台の開発者、富所皖之氏が作った雲台がベースとなっており、古くはホースマンのディスクロック3WAY雲台として1990年頃に販売されていました。その後、今では伝説となった「erg(エルグ)」として復活を果たします。そして現在の松栄工機(旧社名)に受け継がれたのが2003年4月。2008年4月までの5年間、従来のerg雲台に改良を重ねた「エルグ N75シリーズ」が販売されました。

20年近く前に製作されたと思われるerg 4WAY雲台。メーカー名・型番の記載なし
開発設計者である富所氏が亡くなられ、2008年から一時製造中止となっていましたが、2013年に現在の社名に合わせて「prospine(プロスパイン)」に改名し再スタート。今では完全なるプロスパインオリジナルである自由雲台も新たにラインナップされています。
参考:「プロスパイン雲台の歴史」より
プロスパイン P-N75ALP
私が選んだプロスパイン雲台はもっとも小さなP-N75ALPです。これを選んだ理由は小さい3WAY雲台というものを使った経験が無かったからです。
プロスパインは一個一個のパーツを手作業で、わずか±15μ内に削りだし、遊びを一切排した高精度雲台に仕上がっています。素材はA7075系の超々ジュラルミン合金。全て受注生産となっており、価格はもっとも安いこちらのP-N75ALPでも99000円+消費税と鼻血モノ。
操作性は前後左右パンの3軸を単独で操作できる、ごくごく一般的な3WAY雲台です。特徴的な部分は、ディスクブレーキを採用している点でしょう。
スペック
機種名:P-N75ALP
価格:99,000円(本体価格)+税
タイプ:3WAY
カメラネジ:小ネジ
三脚ネジ:大ネジ
サイズ:106×91.4×93(mm)
自重:370g
耐荷重:15kg
自分好みにカスタムできる!
- 5色から色を選ぶことができます。
- オリジナルのネームを入れることができます。
- 左利き用にハンドルを逆向きにオーダーできます。
- アルカスイス互換オリジナルクイッククランプに交換できます。(43,000円+税)
- カメラ取付台にネジ穴など追加工ができます。(要見積もり)
- 各ハンドルレバーを丸型やロングタイプに変更できます。(9,500円+税〜)
価格は2019/10/8時点のものです。変更になる可能性がありますので、都度お問い合わせください。
このように様々なカスタマイズに対応してくれますから、あなただけ世界にたった一台の雲台を作ってもらうことが可能です。もちろん最初はノーマルの状態で試してから、後で加工をお願いすることもできます。

加工例:丸型レバーは全部で4種類。カメラ取付台を加工してRRSのレバークランプを装着できるように追加工。

加工例2:パンハンドルを左側から右側へ移動。これによりハンドル同士の干渉がなくなりました。
気に入った点
ディスクロックは軽い力で強固に固定できる…ディスクロックブレーキは軽く捻るだけで強固にロックできます。
デザインが個性的…なかなか目にしない個性的なデザインですから、撮影現場では常に注目を集めるでしょう。他人とは違った物を使いたいという方にお勧めです。
意外とコンパクト…3WAY雲台は大きく重いというイメージですが、プロスパインP-N75ALPはRRSのレバークランプを換装し、ステンレス製のレバーハンドルに交換しても548gと軽量です。また前後左右を90度倒して折りたたむことで、3WAY雲台の中では非常にコンパクトになります。

雲台自体が非常に軽く、またコンパクトに折りたためるため、可搬性は良い。
ちょっと気になる点
パンの固定力がイマイチ…横から約80mm2ほどの面積のパーツで押し付けるだけの構造です。ノーマルのパンハンドルでは持ち手が短すぎて力を入れづらく、固定力に難あり。
ハンドルを交換することで改善します。ただし純正のT型ハンドルは15000円〜20000円とかなり高額です。使われているのはM6ネジですので、ネジ穴さえ合えば汎用クランプレバーを流用することも可能です。

ステンレス製のハンドルに交換したところ。ラチェット式ですので任意の角度に設定することが可能です。
固定時のズレ…出荷状態では固定時にズレが起こります。結構気になるズレです。これはハンドルレバー内にグリースを充填することで改善できます。ちょう度2程度のグリースが適しているとのことです(えのき氏談)。私はSuper Lubeを入れました。
ハンドルレバーの間隔が狭い…前後ティルト用のハンドルとパン用のハンドルの間隔がかなり狭いので、ロック解除操作時に指を挟みます。
180度逆側にパンハンドルを付け替える追加工をすることで改善できます。(機種・製造時期などによって逆側にネジ穴がない場合があります)
ネジ穴が空いてさえいれば比較的簡単に自分で追加工することが可能です。プロスパインに依頼したら15000円+税とのことです。(ネジ穴が空いている場合)
この追加工によって、左右ティルトがハンドルの干渉が原因で90度傾かなくなってしまいますので、縦位置撮影に切り替えたい時はカメラ装着の向きを90度変える必要があります。L型プレートを使っている方は何の問題もありません。
カメラと雲台の中心軸が一致していない…これを嫌だという意見は意外と多いです。実用上の欠点としては、パノラマ撮影時に視差が生じます。ただこの雲台で本格的なパノラマ撮影をするために購入される方はいないと思いますし、機材のバランスが崩れるというほどのズレでもありません。一般的な撮影において、この軸のズレが欠点となることは、ほとんど無いと思います。

パンした時に中心軸がズレるため、パノラマ撮影時に視差が生じる
プラスネジが使われている…T字ハンドルにプラスネジが使われています。ハンドルの角度を変える時に脱着する必要があります。プラスネジは押し付けながら回さなければならないという手間がかかる上、扱いが悪いとネジが潰れてしまいやすく、六角穴ほどトルクを掛けられません。プラスネジは汎用性と安価というメリットはありますので、大量生産など生産性を考慮して採用されたなら仕方がありませんが、この雲台には六角穴付きボルトを採用してほしいですね。ただM4の六角穴付きボルト(長さ16mm)に交換したら良いだけですので、追加投資としては安いものです。
まとめ
個人的にプロスパイン雲台は製品として完成している雲台ではなく、ユーザーがカスタムして完成させるオーダーメイド雲台だと思います。
初期状態では確かに気になる点が多いですが、ほとんどがカスタムで改善可能です。3WAY限定とは言え、高精度な雲台をある程度自由にオーダーメイドできるのですから、なかなか魅力的だと思います。
万人にはお勧めできる雲台ではありませんが、このデザインに惚れ込んだ人や、人とは違った特別な雲台を求めているマニア向けの雲台と言えるでしょう。


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