すべての希望を叶える雲台は存在しない。
いきなりタイトルに対する厳し過ぎるアンサーでスタートです。
世界の雲台マニアさんこんにちは。今回は世に出回っている雲台について書きたいと思います。雲台とは、三脚や一脚に装着してカメラを固定させる装置のことです。
世の中にさまざまなカメラがあるように、雲台にもさまざまな種類があります。風景を撮影する人もいれば、高速で被写体を追うサーキットカメラマンもいるでしょう。旅行に持っていくために小型軽量の雲台が必要な場合もありますし、十数kgの機材を固定するために固定力が大きい雲台が必要となることもあります。フリクションコントロール機能が付いていないと不安だという方もいれば、むしろそんな機能は邪魔だと感じる方もいます。
みなさま全員の希望を満たせる雲台は残念ながら、この世界にはありません。
一口に雲台と言っても種類はさまざま。
しかしだからと言って絶望する必要はありません。幸運なことに、たくさんの三脚・雲台・カメラメーカーから、さまざまな種類の雲台が販売されています。全ての撮影をカバーすることは出来ませんが、特定のシチュエーションに限定すれば、きっと最高の雲台が見つかるはずです。
一口に雲台と言っても種類はさまざま。今回はひとつひとつ雲台の特徴や説明、お勧めの製品などをご紹介したいと思います。
3Way雲台
3Way雲台(すりーうぇいうんだい)は前後/左右/水平回転(パン)のそれぞれ3方向を「単独で」操作することができる雲台です。機構としてはおそらくもっとも古くから存在する雲台で、スリック史によると「創業者の白石氏が第二次大戦中、アメリカ軍が持ち込んだハスキー三脚を参考に三脚を作った」とありますので、76年前にはすでに現在の3Way雲台の元となるような製品が存在していたようです。
長らく日本人に好まれてきた雲台で、世界的に見てもこれだけ3Way雲台が豊富なのは日本だけのようです。ひとつずつコツコツと合わせるといった生真面目な日本人気質に合っていたのでしょうか?
そう、3Way雲台の長所は何と言っても、1方向ずつ角度を調整できるということです。せっかく完璧に合わせた前後の構図は、もう絶対にズレてほしくない!という神経質な方にお勧めです。またシンプルな機構ゆえに価格がリーズナブルなことも長所と言えるでしょう(非常に高価な製品もあります)。操作が直感的で分かりやすいので、三脚に慣れていない初心者の方にも扱いやすいと思います。得意な分野はネイチャー。

前後・左右・パン、それぞれ単独で操作することができるのが3Way雲台の魅力。
短所は構図合わせに時間がかかってしまうことと、雲台自体のサイズが大きく、そして重くなってしまうことです。またパン棒が突き出している製品が多いため、荷物がかさばってしまったり、三脚の運搬中にパン棒をぶつけてしまうなど不慮の事故にも注意が必要です。
さて、3Way雲台の中にもたくさんの種類があります。フリクションコントロール機能が付いているものや、パンハンドルが収納できるもの、アルカスイス互換のもの、見た目が自由雲台そっくりなもの、上部にもパンが追加された4Way雲台etc…。形は変わっていますが、レボルビング機能搭載のベルボンPHD-66Qや、アルカスイスd4やZ2+も3WAY雲台に含めて良いと思います。

上段左から、ごく一般的な3Way雲台、SLIK「SH-806 N」。フリクションコントロール機能、格納式レバーを搭載したManfrotto「MHXPRO-3W」。アルカスイス互換、格納式レバーを搭載したGitzoの新製品3ウェイフルード雲台「GHF3W」。下段左から半世紀以上、ほとんど変わらない伝説の雲台「Husky 3D HEAD」。レボルビング機能搭載、Velbo「phd-66q」。一見すると自由雲台のように見えるARCA-SWISS「d4マニュアル」。
お勧めの3Way雲台は固定力だけならHusky 3D雲台がお勧めです。重量級機材をお使いの方も安心して任せられます。デザインも含めて個人的に気に入っているのはプロスパイン「P-N75ALP」です。とても小型軽量なので2型相当の三脚にぴったりです。どちらも純国産雲台で、信頼できるメーカーが製造しています。
自由雲台(Ball Head)
自由雲台は、本体であるソケット、その中を自由に動くボールからなるシンプルな構造です。ボールが全方向に動くため、ワンハンドルで自由に構図を決定できます。もっとも素早く構図変更ができる雲台と言っても過言ではないでしょう。ここ5年くらいで3Way雲台を抑えて、もっともメジャーな存在となった雲台です。価格・サイズ・種類が豊富で色々な機材や撮影条件に合わせて製品を選ぶことができるのも人気の理由でしょう。
操作が直感的で分かりやすいので、三脚に慣れていない初心者の方にも扱いやすいと思います。さまざまな撮影分野でオールマイティに使える雲台です。
短所は水や砂などの物理的な外的要因に弱いということ。ボールと受けの間に侵入されると、著しく操作性が落ちてしまいます。最悪故障することも。操作面では1方向のみ構図を変更したい場合でも、ロックを緩めると全方向に動いてしまうため、緻密な構図合わせがしにくいということが短所として挙げられます。
さて自由雲台の派生製品としては、ピストルグリップ雲台も自由雲台に含まれます。見た目は少し変わっていますがアルカスイスP0や、NOVOFLEXのMagic Ballも自由雲台です。Really Right StuffのミニボールクランプBC-18なども広義では自由雲台といっても過言ではないでしょう。

左から梅本製作所L-50ZSC。Really Right Stuff BH-55。VANGUARD ピストルグリップ雲台 GH-200。NOVOFLEX Magic Ball。Arca-Swiss Monoball P0。
お勧めの自由雲台は小〜中型ならアルカスイスP0です。中〜大型であればアルカスイスZ1+とReally Right StuffのBH-55がお勧めです。重量級機材をお使いの方も安心して任せられます。個人的には自由雲台の短所である物理的な外的要因に対して、非常に強いアクラテックのNomadが超お勧めです。濡れても操作性が変わらず、汚れても水で洗えるので、悪天候用に一つ持っていると安心です。
ギア雲台
ギア雲台は、歯車の噛み合わせによって、微動することを目的とした雲台です。歴史は意外と古く、マジェスティックやクイックセットなどアメリカのメーカーでは半世紀以上前から生産していたようです。10年くらい前までは一部のマニアやプロの商業カメラマンが好んで使っているという感じでしたが、最近は一般のフォトグラファーにも非常に人気が高く、ここ2〜3年でラインナップも充実してきました。とはいえ、3Way雲台や自由雲台と比較するとまだまだ種類は少なく、価格も高価ですのでなかなか手を出しにくい雲台かもしれません。
ノブやハンドル、レバーが多く操作が分かりにくいので、三脚の扱いに慣れていない初心者の方には難しく感じるかもしれません。主にマクロ撮影、商品撮影、建築写真などの専門分野の方に便利な雲台です。
短所は緻密な部品で構成されているため、非常に繊細です。衝突や落下といった衝撃に弱く、ちょっとしたことで故障することもあります。メンテナンスが難しいため水や砂などの物理的な外的要因にも弱いです。大きく重くなりがちで、可搬性の悪さも短所のひとつでしょう。素早い構図変更が苦手で、動いている被写体を追うのは、よほど動きが遅い被写体じゃない限り困難です。
さてギア雲台でもっとも有名なのは、Manfrottoの400番台シリーズです。中でもギア雲台の入門機と言われる410は伝説の名機。他には、60年以上の歴史をもつマジェスティック雲台、超高級ギア雲台のアルカスイスd4ギア、C1 Cubeなどがあります。ポータブル赤道儀用の微動雲台は「歯車で微動する」ことに関しては同じですが、用途が限定的ですので広義として含めて良いかどうか微妙なところです。

左からManfrotto 410。Manfrotto 400。アルカスイス d4ギア。マジェスティック 1203。
お勧めのギア雲台は初めての一台ならManfrottoの410。クイックシューが使いにくいですが、まずギア雲台とはどんな物かを知るには良い製品だと思います。アルカスイス互換化するためにはHejnarPHOTO社のアダプターと互換クランプが必要ですが、そこまでお金をかけて改造するなら、もう少し良いギア雲台にステップアップしても良いかもしれません。個人的にはアルカスイスd4ギアがトータルでもっとも優れたギア雲台だと思います。アルカスイスd4ギアを模倣し、安価で販売しているレオフォトのG4も人気が高いです。
ビデオ雲台
ビデオ雲台は、その名の通りビデオ(動画)撮影するために開発された雲台です。通常のスチル用雲台は固定することを目的として作られていますが、ビデオ雲台は(快適に)動かすために作られています。同じ雲台でも用途が正反対なのが面白いですね。カウンターバランスという機材を安定させるためのバランス調整機能がついているものが多く、操作は基本的に前後とパンの2WAYです。雲台自体を水平にセッティングする必要があるので、別途レベリングベースがあった方が便利です
カウンターバランスや前後の位置合わせが必要ですので、三脚の扱いに慣れていない初心者の方には難しく感じるかもしれません。主に動画撮影、野鳥撮影、航空写真などの動体撮影分野の方に便利な雲台です。
短所は大きく重いこと。動体をメインに撮影するなら良いですが、普段の一般的なスチル撮影用を兼ねているなら、やめておいた方が良いと思います。
私は2台しかビデオ雲台を買ったことが無いので、お勧めできる製品はありません。ただヨドバシカメラなど大型カメラ店で色々試させていただきましたが、安価な製品の中に使いやすいビデオ雲台は一台もありませんでした。そんな中、噂だけで購入したSachtler(ザハトラー)のFSBシリーズはなかなか良かったです。しかし使用機材の重量に合わせて高額なザハトラー雲台を使い分けなければならないのは、ちょっとキツイなと思いました。私はReally Right StuffのFH-350を使っています。価格は異常に高いですが、個人的にはそれだけの価値はあったかな?と思っています。
ジンバル雲台
ジンバル雲台は、望遠レンズを指先一本で軽々と操作できる魔法の雲台です。かつてデパートの屋上や展望台には必ず設置されていた巨大な双眼鏡もジンバル雲台と同じ原理です。素早く構図変更ができる雲台で、特に動いている被写体を追うことが得意です。ここ2〜3年くらいでかなり種類が豊富になってきましたが、専門性が高すぎるためか、価格はこなれているとは言えません。300mmf/2.8〜600mmf/4クラスといった超重量級レンズを扱うカメラマンに是非使ってほしい雲台です。大きく分けてブランコ型のフルジンバルと、ベースとアームのみのサイドマウントジンバルがあります。
短所は大きく重いこと。野鳥撮影など動体をメインに撮影するなら良いですが、普段の一般的なスチル撮影用を兼ねているなら、やめておいた方が良いと思います。
さてジンバル雲台でもっとも有名なのは、ウィンバリー(Wimberley)のウィンバリーヘッドです。しかし歴史的にはKIRKのキングコブラがもっとも早かったそうです(スタジオJin店長談)。他には、いち早く分解式を取り入れたカスタムブラケットのCBジンバル、カーボン製ジンバル雲台ZENELLI(ゼネリ)のCARBON-ZX、フルード式のGitzo GHFG1などが有名ですね。Manfrottoの393もジンバル雲台の一種ですし、自由雲台にセットして初めてジンバル雲台となるウィンバリーのサイドキックも広義ではジンバル雲台に含めて良いと思います。

上段左からウィンバリー ウィンバリーヘッド。KIRK キングコブラ。カスタムブラケット CBジンバル。ZENELLI CARBON-ZX。下段左からGitzo GHFG1。Manfrotto 393。ウィンバリー サイドキック。
ジンバル雲台の中にはパノラマ雲台として使えるものもあります。Really Right StuffのPG-02、FG-02がそうです。パノラマ雲台にはパノラマ専用の機材も多く、一緒に括るのは難しいです。
お勧めのジンバル雲台はReally Right StuffのFG-02、もしくは一世代前のReally Right Stuff PG-02。大型自由雲台をお使いの方なら、ウィンバリーのサイドキックもお勧めです。
ハイブリッド雲台
ハイブリッド雲台とは、二つの異なる雲台を組み合わされた雲台のことです。例えば先ほどのReally Right Stuffのジンバル雲台FG-02も、ジンバル雲台とパノラマ雲台とビデオ雲台を組み合わせた雲台ですのでハイブリッド雲台に含めても良いと思います。ハイブリッド雲台として最も有名なのは、自由雲台とギア雲台を組み合わせたアルカスイスのP0 Hybridです。最近これとよく似た機構の製品がレオフォトとマセスから販売されています。
自由雲台でざっくり構図を決めたあと、ギアで微調整するという操作方法は本当によく出来ており、一般的な撮影用途では一番構図合わせがしやすい雲台だと思います。あらゆるシーンで活躍してくれる万能雲台です。
お勧めのハイブリッド雲台は…。と言ってもアルカスイス P0 Hybridしか使ったことがないので、これしかお勧めできないのですが、それでも超お勧めです。短所として値段の高さが挙げられます。が、輸入価格約11万円は使ってみると決して高いとは感じません。それだけの価値がある雲台だと思います。
動画
30分くらいダラダラ喋っていますので、かなり暇な方だけご覧ください。
まとめ
実はほとんどの場合、雲台は自由雲台ひとつあれば事足ります。フリクションコントロールを上手く利用すれば、コンデジから超望遠レンズまで扱えますし、動画だって滑らかに撮れます。微調整だってそんなに苦ではありません。最近は画像編集アプリが進化を続けていますので、縦パノラマだってかなり正確に繋いでくれます。
そのためもっともコストパフォーマンスが高い雲台は自由雲台、中でも大型機材まで扱えるアルカスイスZ1+かReally Right Stuff BH-55でしょう。
重量が3kgまでの機材をお使いであればアルカスイス P0 Hybridもお勧めです。おそらく向こう10年雲台を買い換えようという気持ちがなくなると思います。(それはそれで寂しいですが)そういう意味では一番コスパが高いと言えるかもしれません。
逆にパノラマ雲台やジンバル雲台、ビデオ雲台といった専門性の高い雲台は、一般のフォトグラファーには使いこなせずにタンスの肥やしになってしまう可能性が高まります。購入前に一旦冷静になって、本当に必要かどうかを自分に問うてみることが大切です。
自分にぴったりの雲台を選ぶことができれば、使っていて楽しく快適で、そして素晴らしい写真を生み出してくれるはずです。皆様が最高の雲台と出会えますように!


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