良い自由雲台とは
良い自由雲台とは一体どのような雲台でしょうか?私はこれまで十数種類の自由雲台を使ってきました。その経験から良い自由雲台の選び方をご紹介したいと思います。
クイックシューシステムはアルカスイス互換であること
雲台にはカメラネジタイプと、クイックシュータイプがあります。
カメラネジタイプはカメラの底の雌ネジ穴と、同じ大きさの雄ネジが雲台に付いているタイプです。カメラの脱着には時間や煩わしさを要しますが、余計な部品を挟まずに直接装着できるため、もっとも固定力に優れ、ブレに強いという声もあります。
しかしネジタイプですと縦構図でセットした時に、三脚の中心から大きく離れてしまうため、バランスが不安定になってしまいます。ミニ三脚などでは機材の重みに耐えきれず、倒れてしまうこともあります。またカメラを傷つけないために台座がコルクやゴムシートを貼ってあるものが多く、このシートが原因で撓んだりズレてしまうことがあります。ネジの向きによっては機材の重さによって緩んでしまうこともあります。
クイックシュータイプとは雲台専用のプレートをあらかじめカメラに装着しておくことによって、雲台の脱着をスピーディにするための機構です。しかしこれにも問題があります。カメラと雲台の間に1つ余計な部品が着くわけですから、構造的に弱くなります。当然ですね。また多くのクイックシューシステムは「クイックに脱着できること」を重視して作られてきました。スピードにこだわるあまり「強さ」を無視してきた結果、ネジタイプより劣っていると長く言われてきたのです。
しかしアルカスイス互換のクイックシュータイプは、ボディ専用にプレートを作っているメーカーが多く、ボディと一体化することが可能です。またストラップを取り付ける穴を利用してネジ止めすることによって、ボディ以上の剛性を実現している物もあります。
また多くのクイックシューが片方を嵌め込み式にして、もう片方を点で固定している構造です。しかしアルカスイススタイルはアリガタとアリミゾが面で固定する構造です。クイックにこだわっていないため、他のクイックシューよりも脱着に時間は要するかもしれませんが、カメラネジタイプよりは圧倒的に早く、またクイックシューの弱点を全て克服したスタイルがアルカスイス互換なのです。これらを組み合わせる接合方式は、何と弥生時代の遺構に存在しているとのことで「アリガタ」という名称は昆虫のアリの触角の形(角度)に由来するらしいです。
このスタイルを真っ先にクイックシューとして取り入れたメーカーが「アルカスイス」であり、天文機材メーカーです。そして、そのアルカスイスを模倣して、アメリカの「Really Right Stuff」、「KIRK」、「Wimberley」といったメーカーから互換製品が製造されてきました。その後、マーキンス、BENRO、SIRUIといったアジアのメーカーも続々参入し、遂にはGitzoまで参入し、2019年遅ればせながら日本のベルボンまでが参入するに至りました。(もっと昔から地味にアルカスイス互換品はありましたが、正式に発表したのは2019年が初めてだと思います)
しかし厳密に規格化されないまま模倣に模倣を重ねていった結果、各メーカー毎に微妙な誤差を生んでしまいました。この誤差によって互換性まで脅かされているという皮肉な結果に陥っているのが現実です。この問題を回避するには「レバー式のクランプを使わずスクリューノブ式のクランプを使う」か、プレートとクランプを同一メーカーに統一するしかありません。
またクランプに滑落防止のピンなどが付いていると、他社のプレートに適合しない可能性が高まります。ピンが外せる場合は良いですが、外せないものは避けた方が良いでしょう。同じようにプレート側に付いているネジもクランプによっては互換性に影響を及ぼす可能性があります。使うメーカーを統一するか、滑落防止機能は諦めて外してしまうしかないでしょう。
このようにまだまだ問題は山積な状態ですが、それらを差し引いてもアルカスイス互換は素晴らしいクイックシューシステムです。ダラダラと書いてしまいましたが、簡単にまとめますと、次の通りです。
- アルカスタイルはカメラネジタイプより脱着がスピーディーで、機種専用プレートを使えば剛性の問題がなくなる。
- レバー式のクランプを使わずスクリューノブ式のクランプを使うことで互換性の問題が改善される。
- レバー式を使う場合はプレートとメーカーを揃えると互換問題が解決する。
- クランプに滑落防止ピンが付いていない方が互換性が高い。
耐荷重よりもボールサイズで選ぶ
メーカー発表の耐荷重を気にしてはいけません。あの数値は各メーカーが独自の基準で算出した数値であり、ひとつとして統一されていません。例えば10kgの機材を「ただ単に固定できた」だけで耐荷重10kgと記載するメーカーもあれば「20kg載せたら壊れたから半分の10kgにしよう」というメーカーもあります。それでは自由雲台の強さを予測する上で、スペックの何を見たら良いのでしょうか?
それはずばり「ボールサイズ(ボールの直径)」です。
自由雲台はボールの大きさに比例して固定力が強くなります。もちろん製品の設計によって固定力に差があります。しかしまったく同じ構造の製品であれば、間違いなくボールサイズが大きい方が強いです。そしてボールの直径が1cm変わると、固定力は数十kg変わります。さらにボールが大きいほど工作精度が上がりますので、操作性もアップします。ただし、ボールが大きくなるということは、雲台自体が大きく重くなるということです。いくら強く操作性が良くても、持ち運びが苦痛な重さだと意味がありません。自分の体力やバッグの収納スペースと相談しながら、可能な限りボールが大きい製品を選ぶと良いでしょう。私の経験ではボールサイズが50mmの雲台であれば、フルサイズ一眼レフ&大三元レンズを余裕で操作できることが多かったです。40mmでも操作可能ですが、操作性は一気に落ちます。30mmになるとちゃんと固定できているか心配になるくらい、固定力が弱くなります。それ以下だと実質フルサイズ一眼レフ機には使えません。
- メーカー発表の耐荷重はアテにならない。
- フルサイズ一眼レフ使用であれば、ボールサイズは最低でも40mmは欲しい。
- 重さが許容範囲であればボールサイズは50mm以上が理想的。
<ボールサイズ50mm以上の自由雲台> GITZO GH3382QD / ARCA-SWISS Z-1+ / Z1g+ / Really Right Stuff BH-55 / KIRK BH-1 / ベルボン QHD-G7AS
フリクションコントロール搭載の方が安心
自由雲台という雲台は一つのハンドルを操作することで、ほぼ全方向にカメラの向きを変えることができます。つまり、ハンドルを回すだけでカメラの固定が緩んでしまうということです。操作に慣れない間はうっかり緩めてしまって、機材と雲台の隙間に指を挟んでしまうという悲惨な事故に繋がる可能性があります。私も何度か経験しましたが、アレめちゃくちゃ痛いです。また幸い指を挟まなくても、急降下の勢いのまま三脚が転倒してしまうという可能性もあります。これも実際に経験しましたが、アレめちゃくちゃ痛いです(精神的に)。
うっかり緩めても機材が急降下しないように調整する機能が「フリクションコントロール機能」です。大抵の大型自由雲台に搭載されていますが、中には付いていない物もありますので、購入前にカタログなどで調べておくことが大切です。
ボールの滑らかさをチェックしよう
ボールの滑らかさはボールの工作精度と、コーティングによって決まります。アルカスイスやRRS、KIRKなどはボールの工作精度を高めることで滑らかな操作性を、Gitzoやマーキンスはボールに特殊なコーティングを施すことによって、高い操作性を実現しています。
ただし自由雲台は個体差がよくあります。高級雲台であるアルカスイスZ1+も個体差による当たり外れが多く、ボールの動きやパンの動きが非常に悪い物があります。これは初期不良ではなく仕様の範囲内と言われ、交換してもらえないことが多いので、もしネットではなく実店舗で購入される場合は、操作性に問題がないか確認されることをオススメします。
自由雲台はボールが汚れたり、傷ついたりすると、操作性が著しく悪くなってしまいます。またボールを固定するパーツは雲台の内部に隠れています。この部品は樹脂製であることが多く、この部品の精度が悪いと操作性が悪くなります。また最初は良くても、品質の悪い樹脂だと劣化が早く、数年で割れが発生してしまい、内側が原因で操作性が悪くなることがあります。見た目が高級でも内部まで高級とは限りません。私が信頼しているメーカーの雲台しか勧めないのは、こういった理由があるからです。
ボールのロック・アンロック時に構図がズレる
自由雲台はボールを樹脂製(あるいは金属製)の部品で押し付けて固定するという構造です。そして固定する時、その押し付ける方向にズレが生じます。それは自由雲台の宿命であり、逃れる術はありません。マクロ撮影をしていると、このズレは非常に深刻な問題となります。
しかし精度の良い雲台を選ぶと、このズレは最小限で済みます。これは実際に操作してみないと、どれだけズレが起こるか分かりません。私がこれまで使ってきた自由雲台の中でもっともズレが少なかったのはReally Right StuffのBH-55でした。
パンのロック・アンロック時に構図がズレる
パンのロックでもズレが起こる雲台があります。上方向にズレるものもあれば、回転方向にズレるものもあります。これも仕様上、ある程度は仕方ないかもしれません。
そして同じく精度の良い雲台を選ぶと、このズレは最小限で済みます。これもやはり実際に操作してみないと、ズレが起こるかどうか分かりません。私がこれまで使ってきた自由雲台の中でもっともズレが少なかったのはアルカスイスのZ-1(Z-1+)でした。反対にズレが大きかったのはマーキンスでした。あまりにズレたので不良品かと思い、トリンプルに動画を撮って確認してもらいましたが「仕様の範囲内です」ということでした。マーキンスは人気が高いので、そんな製品でないと思うのですが、代理店が言うのですからそういう製品なのでしょう。現物を確認もせずに残念な対応でした。
価格が高い方が良いとは言わないが、高いには理由がある場合が多い
価格が高いのに何年も売れ続ける製品というのは、それだけ価値を維持していると言えます。売れなければ商売として成り立ちませんので。値崩れを起こしている製品は、それだけの価値がないと市場に判断されたと見るべきでしょう。また自由雲台は内部で使われている部品まで外から判別できません。安価な雲台は真っ先にこういう見えない部品からコストカットします。高いには高いなりの、安いにも安いなりの理由があるのだと言うことも覚えておくと良いでしょう。私が思うに50mmの自由雲台でまともな物を作るなら、最低でも2万円くらいは出さないと良いものは得られないのではないか?と思います。
動画で見る良い自由雲台
まとめ
さて長々と書きましたが、最後に良い自由雲台の選び方をまとめたいと思います。
- アルカスイス互換のクイックシューシステムであること。
- 互換性を重視するならスクリューノブ式であること。
- レバー式を使う場合はプレートとメーカーを揃えること。
- クランプに滑落防止ピンが付いていない方が互換性が高い。
- メーカー発表の耐荷重はアテにしないこと。
- フルサイズ一眼レフ使用であれば、ボールサイズは50mm以上が理想的。
- ボールの滑らかさをチェックすること。
- 各ロック操作時のズレをチェックすること。
- 安い製品を検討する場合は、より厳しいチェックをすること。
- 可能であれば実際に機材を載せて操作させてもらうこと。
使い勝手は個人の好みというものがありますので、私が良いと思った物でも、あなたにとって良いとは限りません。ですが、この記事があなたの自由雲台選びの一助となれば幸いです。


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コメント
いつも楽しく拝見しています。
ちょうど気になっていることがあり
最近、MORE BLUEの自由雲台が
二万円と手頃で気になっているのですが
あれはRRS等と比べてどんな感じでしょうか?
しゃりお様、コメントありがとうございます。MORE BLUEは触った事がないので分かりませんが、見たところ長いティアドロップ型のノブが操作に干渉しそうですね。もしかすると引っ張って角度を変更できる仕様かもしれませんが、このせいで煩わしくなると思います。そしてここまで長くした理由は、おそらくですが短いと固定力を確保出来なかったのではないかと推察できます。つまり設計の段階で躓いた可能性が高いです。今の所、2万円くらいですと、最近発売されたばかりのベルボンの自由雲台が触った感じ良かったです。ヨドバシなどがお近くにあれば多分実機を触らせてもらえるので、寄る機会がありましたら、ぜひ触ってみてください。ただしロック時のズレまでは確認できていないので、その辺りはしっかり確認された方が良いかと思います。他では少し予算アップしてしまいますが、MARSACEの自由雲台はなかなか良い製品が多いです。それ以上の金額になるとアメリカから直輸入でアルカスイスZ-1+が買えてしまう金額になるので、そちらをオススメしたいです。
参考にさせていただいております。
マーキンスのBV-HEADでパンのロックに問題(ノブを緩めてもパンが重い)が発生し、トリンプルに送って直して頂きました。
トリンプルから色々と要望はしているが、マーキンスから良い返事(改善)は無いとの事。(トリンプルのサポートは良いだけに残念)
「高いには理由がある」は同感です。
三脚はGITZO、ビデオ雲台はSachtler、自由雲台はReally Right Stuff、ギア雲台はARCA-SWISSと機材道楽に勤しんでいます。
anko様、コメント&情報ありがとうございます。私の周囲では、トリンプルのサポート対応であまり良い評判を聞かなかったのですが、そのような良い対応をされる事もあるのですね。
マーキンスの雲台は正常な物であればパンのズレはほとんど無いというご意見も頂いてきます。製品はどんな物であれ、どうしても個体差がある事も分かっています。おそらくメーカーや代理店だってわかっていると思います。それだけに現物を確認せずに仕様の範囲内と片付けられたのは、私にとって残念でした。すべてのユーザーがanko様のように良いサポートを受けられるように切に願います。
[…] 先日「良い自由雲台の選び方」という記事で、良い自由雲台とは以下のようにまとめました。 […]
こんにちは。
以前、ジッツォとRRSの雲台で相談に乗ってもらった者です。
先日はありがとうございました。
あの後、ハクさんの助言通りヨドバシで実機を触って悩みに悩んだ結果、RRSのBH-55にしようと決めました。
ただ、国内では高価なので個人輸入しようと考えてるんですが、初めてなので少し躊躇してます。
現在、RRSからとB&Hからの2通りの買い方がある様なのですが、購入のし易さや送料や関税など踏まえてどちらで購入するのががオススメでしょうか?
それから送料や税金などは50ドル前後みておけば大丈夫でしょうか?
macさん、こんばんは。RRSの製品はほとんどB&Hで購入可能ですので、そちらをお勧めします。送料はDHLを指定すれば28.5ドル程度です。RRS本家から買うと80ドル以上かかると思います。関税(消費税など)にかかる金額はどちらでも変わりません。金額は3000円ほどだと思います。クレジットカードで購入される場合は決済日の為替レートに1ドル当たり2円ほど手数料上乗せされます。ざっくり総額約6万円といったところです。他に知りたいことがありましたら、またご相談ください。
ありがとうございます!
B&Hの方が良さそうですね。
同時にCANONの 70-200f2.8用のプレートも買おうと思ってるんですが専用の物は無さそうです。
L85というプレートで良いんでしょうか。。
macさん、こんばんは。Canonはそんなに詳しくないのですが、おそらくKirk CRC-1が適合するのではないでしょうか?
リンク先にてきちんと適合するか確認してください。
https://atelierjin.com/shop/products/detail.php?product_id=227
もし合っていたら、B&Hにも取り扱いがあるので同時に注文されたら良いと思います。
レンズサポートブラケットLS-1Nも格好良いです。
と悪魔の囁きをしておきますね。